申し送りで自分のときだけ返事がない。お局ナースの機嫌で病棟の空気が決まる。インシデントを皆の前で何度も蒸し返される・・・
「でも患者さんのためだし」「どこの病棟もこんなものだし」「辞めたいなんて甘えかな」
そう思って耐えている看護師に、先に結論を言っておく。**看護師の職場いじめは世界中で研究されるほど「業界の構造問題」であり、あなた個人の打たれ弱さの問題ではない。**今日はそれを示す論文を7本紹介する。
データ:めずらしくない。むしろ「よくある」
2013年の韓国の研究(被引用数72件)では、調査した病院看護師の23%が直近6ヶ月以内に職場いじめを経験していた。さらに注目すべきは加害者の内訳で、52.9%が看護師、その中の63%が先輩看護師。次いで医師が23%だった[1]。いじめが「上下関係の中」で起きる職種だということが数字で出ている。
2022年のサウジアラビアの研究(被引用数77件)でも、347人の看護師の33.4%がいじめを経験し、31.7%が強い離職意向を持っていた。いじめと離職意向には有意な相関があった[2]。
国が違っても数字が似ている。つまりこれは「うちの病棟がたまたまヤバい」のではなく、看護という職場構造が生みやすい現象だ。
実害:気合では防げないダメージが出る
2019年のPLoS ONE掲載の研究(被引用数152件)は、臨床看護師324人を調査し、職場いじめが情緒的消耗(燃え尽きの中核症状)、共感疲労、離職意向のすべてと有意に関連することを統計的に示した[3]。
さらに2015年の大規模メタ分析(被引用数336件。対象者数は11万人超)では、職場いじめはうつ症状・不安・ストレス症状と一貫して関連し、しかも時間を追った調査でも悪影響が確認されている[4]。
「気にしないようにする」で防げる範囲を超えて、心身が削られる。これは根性論ではなく計測された実害だ。
原因の一端は「上」にある
2018年のJournal of Nursing Managementの研究(被引用数53件)では、人間関係を重視しない上司のもとで働く看護師は、業務関連のいじめを受ける確率が5.8倍だった[5]。いじめの発生率は、師長・主任のマネジメントスタイルに強く左右される。
あなたが今いる病棟のいじめは、あなたが来る前から発生条件が揃っていた可能性が高い。
対処①:「言い返す練習」には効果のエビデンスがある
個人でできる対処として、研究で効果が確認されているものがある。認知リハーサルといって、よくあるいじめ場面への返し方を事前にシナリオで練習しておく方法だ。
2017年の韓国のランダム化比較試験(被引用数68件)では、20時間の認知リハーサル研修を受けた看護師は対人関係が改善し、離職意向が有意に低下した[6]。2019年には同じ手法をスマホアプリ化した研究もあり、人格攻撃系・業務妨害系のいじめ経験と離職意向の減少が確認されている[7]。
「とっさに何も言えなかった」を減らす台本の準備は、精神論ではなく介入研究で効果が出ている技術だ(この台本化は記事末のnoteで道具にしてある)。
対処②:それでも「組織が変わる」を待つ根拠は弱い
ここで重要な研究を1本。コクラン(医療系エビデンス評価の最高権威)が2017年に出した職場いじめ予防介入のシステマティックレビュー(被引用数193件)は、組織レベルのいじめ防止介入について「効果のエビデンスは非常に低い質」と結論している[8]。礼節研修などで小さな改善は見られたものの、決定打と呼べる介入は確認されていない。
つまり「上が研修を入れたからそのうち良くなるはず」を待つ戦略には、科学的な裏付けがほぼない。
この2つを並べると、結論はシンプルになる。個人の対処(言い返しの台本・記録)で守りを固めつつ、職場そのものが構造的に変わらないなら、環境を替えることが研究的に最も合理的な選択肢だ。看護師の転職は「逃げ」と言われがちだが、いじめ→燃え尽き→うつという計測済みのルート[3][4]の途中下車であり、医学的にはむしろ予防行動に近い。
幸い看護師は転職市場が強い職種で、病棟の人間関係を事前に調べてくれる専門エージェントもある。「辞める」と決める前に、「外の選択肢を知っておく」だけでも、今の病棟での心理的な余裕が変わる。
この記事の実践編として**『看護師の職場いじめサバイバルキット|いじめ度セルフチェック+言い返し台本15場面+転職判断チェックリスト』**をnoteで公開している。明日の申し送り前にスマホで開ける形にしてあるので、ロッカーの中のお守りにどうぞ。

今日の種は以上。
また次の種で会おう。
参考文献
[1] Effect of Workplace Bullying and Job Stress on Turnover Intention in Hospital Nurses. Journal of Korean Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing (2013). https://doi.org/10.12934/jkpmhn.2013.22.2.77 [2] The Prevalence and The Relationship of Workplace Bullying and Nurses Turnover Intentions. SAGE Open Nursing (2022). https://doi.org/10.1177/23779608221074655 [3] Association between workplace bullying and burnout, professional quality of life, and turnover intention among clinical nurses. PLoS ONE (2019). https://doi.org/10.1371/journal.pone.0226506 [4] Workplace Bullying and Mental Health: A Meta-Analysis on Cross-Sectional and Longitudinal Data. PLoS ONE (2015). https://doi.org/10.1371/journal.pone.0135225 [5] Relationship between leadership, bullying in the workplace and turnover intention among nurses. Journal of Nursing Management (2018). https://doi.org/10.1111/jonm.12708 [6] Effects of a Cognitive Rehearsal Program on Interpersonal Relationships, Workplace Bullying, Symptom Experience, and Turnover Intention among Nurses: A Randomized Controlled Trial. Journal of Korean Academy of Nursing (2017). https://doi.org/10.4040/jkan.2017.47.5.689 [7] Effects of a smartphone application for cognitive rehearsal intervention on workplace bullying and turnover intention among nurses. International Journal of Nursing Practice (2019). https://doi.org/10.1111/ijn.12786 [8] Interventions for prevention of bullying in the workplace. Cochrane Database of Systematic Reviews (2017). https://doi.org/10.1002/14651858.cd009778.pub2
関連研究:
- 新卒男性看護師は女性よりいじめ経験が多いという報告:Journal of Clinical Nursing (2021). https://doi.org/10.1111/jocn.15671
- 情緒的消耗がいじめと離職意向を媒介する:BMC Psychology (2025). https://doi.org/10.1186/s40359-025-03008-0
- 新卒看護師の燃え尽きと職場環境:Health Care Management Review (2012). https://doi.org/10.1097/hmr.0b013e31822aa456
- 関係重視の組織文化がいじめを直接抑制する:Asian Nursing Research (2018). https://doi.org/10.1016/j.anr.2018.01.004


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