「市長が消された」という噂を、俺は笑えなかった。陰謀論を信じてしまう心理を論文で解剖する

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SNSで流れてきたニュースだった。

ある市長が亡くなった。移民政策に反対する条例を推し進めていた人物だ。

「消されたんじゃないか」という声が、すぐに出た。

俺は最初「また陰謀論か」と思った。思ったんだが、読み進めるうちに「でも、あり得なくもないな」という感覚が湧いてきた。

・・・この感覚、危ないやつだ。俺は知っている。

詐欺の心理を論文で調べてきた俺が、陰謀論の心理も調べた。そしたら、ほぼ同じ構造だった。

①陰謀論は「頭の悪い人」が信じるものではない

まず、多くの人が思い込んでいることを崩す。

2017年のCurrent Directions in Psychological Scienceに掲載された論文(被引用数1,268件)は、陰謀論の心理を総括して、信じる動機は「認識論的(世界を理解したい)」「実存的(安全でいたい)」「社会的(自分のグループを肯定したい)」の3種類だと整理している[1]。

これ、全部「正常な人間の欲求」だ。世界を理解したい、身を守りたい、仲間と同じ認識を持ちたい。賢い人でも、真面目な人でも、この欲求は当然持っている。だから陰謀論は「頭が悪い人が騙されるもの」ではない。

②「パターンを見つける脳」が陰謀論を作る

なぜ、バラバラな出来事が「つながって見える」のか。

2018年のPerspectives on Psychological Science掲載の研究(被引用数416件)は、陰謀論を信じやすい傾向が、パターン認識・エージェント検出(意図を持った存在を見つける能力)・脅威管理・連合検知という、人間が進化の過程で獲得した心理メカニズムの副産物だと論じている[2]。

平たく言うと、「ライオンがいるかもしれない気配を察知する脳」が、現代でも勝手に動いている。偶然の出来事の中に、意図を持った何者かを見つけようとしてしまう。

市長が亡くなった。政策で権力者と対立していた。だから脳が「何者かの意図があったはずだ」というパターンを自動で探す。証拠がなくても。

③「信じやすさ」には個人差がある

でも、同じニュースを見ても、陰謀論に引っかかる人とそうでない人がいる。

2013年のFrontiers in Psychology掲載の研究(被引用数1,068件)は、陰謀論への傾倒度に**「陰謀メンタリティ(conspiracist ideation)」**という安定した個人差があることを7,766人の調査で示した[3]。高い人は「世の中は常に何かに支配されている」という前提で世界を見やすい。

さらに2016年のApplied Cognitive Psychology掲載の研究(被引用数524件)では、教育レベルが高いほど陰謀論を信じにくい傾向があることが示された。ただしこれは「賢い人は信じない」ではなく、「批判的思考のトレーニングが、陰謀論の構造を見抜く力を育てる」というメカニズムだ[4]。

④一度信じると、反証を出しても逆効果になる

これが一番怖い。

アムウェイ記事でも書いたが、2022年のNature Reviews Psychology(被引用数1,255件)の研究は、一度信じた誤情報は訂正されても残り続け、むしろ否定されると信念が強化されることがある、と示している[5]。

「それはデマだよ」と言うと、「真実を隠したい人が否定しているんだ」という解釈になる。陰謀論は「反証」を「証拠」に変換する構造を持っている。これが根深い。

⑤俺が「あり得なくもない」と思ってしまった理由

最初の話に戻る。

なぜ俺は「消されたんじゃないか」という話に引っかかりを感じたのか。

答えはシンプルだ。権力への不信感があったからだ。研究[1]が言う「安全でいたい」という動機と、「権力者は隠蔽する」というパターンが一致したとき、脳は証拠なしでもつながりを見つけようとした。

これは俺が特別に疑い深いわけじゃない。こういう動機と認知の仕組みを持っているのが人間だ、ということだ。

だから大事なのは、「信じないようにする」ではなく、「信じそうになったときに立ち止まる手順」を持っておくことだ。

不満を感じている環境から、実際に選択肢を広げることが、陰謀論的な思考に引きずられない一番の現実的な対処だ。外の世界を知ると、目の前の環境への解像度が上がる。

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この記事の実践編として**『陰謀論チェッカー:その「つながり」は本物か?5ステップ検証シート』**をnoteで公開している。「あり得なくもない」と感じた話を、5分で冷静に仕分けできる道具にしてある。引っかかりを感じたときのお守りにどうぞ。

今回の種はここまで。
次の種でまた会おう。

「市長が消された」という噂を、俺は笑えなかった。陰謀論を信じてしまう心理を論文で解剖する|がちゃぴん
SNSで流れてきたニュースだった。 ある市長が亡くなった。移民政策に反対する条例を推し進めていた人物だ。 「消されたんじゃないか」という声が、すぐに出た。 俺は最初「また陰謀論か」と思った。思ったんだが、読み進めるうちに「でも、あり得なくも…

参考文献

[1] The Psychology of Conspiracy Theories. Current Directions in Psychological Science (2017). https://doi.org/10.1177/0963721417718261
[2] Conspiracy Theories: Evolved Functions and Psychological Mechanisms. Perspectives on Psychological Science (2018). https://doi.org/10.1177/1745691618774270
[3] Measuring Individual Differences in Generic Beliefs in Conspiracy Theories Across Cultures. Frontiers in Psychology (2013). https://doi.org/10.3389/fpsyg.2013.00225
[4] Why Education Predicts Decreased Belief in Conspiracy Theories. Applied Cognitive Psychology (2016). https://doi.org/10.1002/acp.3301
[5] The psychological drivers of misinformation belief and its resistance to correction. Nature Reviews Psychology (2022). https://doi.org/10.1038/s44159-021-00006-y

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